J000 世田谷 ツバキ (49/135)
とはいえ、アーデルハイトの優勢は変わっていない。
ズシオウマルは前足を裂かれ、毛の間に血を滲ませている。
なるほど、フワフワの毛のお陰で、ちょっとやそっとでは血は垂れないか。
「ああ! クソッ!」
ゼンイチも、新たに手の甲に浅い傷をつけている。腹と太ももの傷の血は、服によって抑えてはいるが。
首を抑えている指の間から、トロリと血が垂れた。
すでに何度も袖で拭いて、彼の服は真っ黒に滲んでいた。
時計を見れば、勝負開始から2分ほど経っている。
あと一歩でもゼンイチが動けば、血は垂れる。
「彼も潮時。とんだ噛ませ犬。いや、それ以下」
フジコの言う通り、間もなく文京ゼンイチが脱落する。
「オンッ!」
「バウフ!」
メスであるアーデルハイトよりも、ズシオウマルのほうが吠えの音域が高い。オスのくせに。
2匹はゼンイチを戦力外とみなし、金色と黒目に互いを映していた。
「オラ! シカトしてんじゃ……」
「バカ!」
良。
ゼンイチがアーデルハイトに掴みかかろうとしたとき、彼の指から血が浮いた。