J000 世田谷 ツバキ (48/135)
「──怪我はありませんね? ご主人さま」
次の瞬間、僕の目の前には、歯型のついた細い腕があった。
小さな穴から、血が垂れている。
ズシオウマルが僕に襲いくる直前、台東フジコが腕を差し伸べ、僕を守ったのだ。
「ええフジコさん、ありがとうございます」
僕は眼鏡を戻し、フジコにハンカチを渡した。
「訴えたら勝つから! 次はないわよ荒川エイア! 対戦者も車のリングから出ないこと! 出たら失格! 異論はないわね!」
「事故でしょ。ごめんなさい」
フジコの大声に、荒川エイアは嫌味なほど素直な返事をした。
ズシオウマルは、何事もなかったかのように、アーデルハイトへ唸っている。
「ズシオウマルに、なにか怨みでも買ってるの?」
「まあ、昔、少しね」
フジコにそう答え、僕は四足の旧友を睨んだ。
この勝負のドサクサに紛れ、僕を襲った。
墨田教授の意思を継ぐ者が、この場に1人、いや1匹だけいた。
僕の鼓動は高鳴り、喉が渇いていた。
今のは少しビビッたぞ。
「……ズシオウマルを殺せ。アーデルハイト」
僕は小さく呟いた。