J000 世田谷 ツバキ (37/135)
「それで? 初めの勝負は?」
勝負の提案は各派閥から、1つずつローテーションで行う。順番についての規定は特にない。
一瞬の間のあと、台東フジコが前に出た。
「私の提案なんだけど、いいかしら?」
台東フジコがアイコンタクトで車のトランクを差し、僕を見た。
早速〝彼女〟を使うか。
「結構。僕、世田谷ツバキ派閥の提案として出しましょうか」
「この場にプールはないよ?」
荒川エイアの視線に、台東フジコは厚めの唇を湿らせた。
「同じこと繰り返すほど、ネタに困ってないわ。〝ブアメードの血〟ってご存知?」
「知らない」
荒川エイアが首を横に振るなか、リュウオウが舌打ちした。
「知ってるよ。絶望で人は死ぬ、でしょ」
「ほう、よくご存知で。さすがリュウオウくん」
ブアメードの血とは、1880年代のオランダで、ブアメードという死刑囚に対して行われた実験のことだ。
諸説のなかの一つではあるが、僕も知っている。
体内の血液を規定値まで抜くと、人は死ぬ、と言われている。
この実験は、その値以上の血液が人の身体に流れていることを証明するためのものだ。
死刑囚ブアメードはそう聞かされ、目隠しをされた後に足の親指の先を切られた。
ポタポタと血が垂れていくなか、彼は現在の進捗を定期的に聞かされる。
そして数時間たって、医師が彼にこう言った。
成功だ! 規定値を超える血を体外に排出した!
ブアメードは既に事切れていた。