0022 江東 キヨ (28/34)
不意に墨田が言っていた言葉を思い出した。
〝人々は極限まで虐げられたとき、恐怖を克服するために何を行うか、分かるかい?〟
歌うんだ。
焼けていく身体よ、汗も涙も血も、この子を守っておくれ。
意識が朦朧とするなか、おれはあの歌の、最後の一句を口づさんだ。
「……善良な人たちを待たせずに、早く出てこ……い」
家の中は熱いから、この子に水筒を……。
あの子はおれの父親の血を濃く受け継いでしまった。
おれの罰は死んだこと。
おれの罪は──。
──息子の目の前で死んだこと。
焼け後に1人、取り残されたゼロ。
おれは映画のような景色を観ていた。
消防服を着た男がゼロに近付き、何かを言う。
ゼロは音もなく首を振った。
ゼロが眺める足元に、母親の亡骸があった。