0022 江東 キヨ (17/34)

「……残念だったな。テメーは産んでやれねー」


おれの人生は、おれ1人でいっぱいいっぱいなのさ。


冷めた目で、おれは自分の腹を見ながら、誰よりも近くにいるのに、決して出会わない、そいつに語りかけていた。


数週間後、おれは産婦人科に行き、医者にその旨を伝えた。


旅行のために貯めた貯金を崩すのは嫌だなとか、墨田に連絡して金を巻き上げるとか、そんなことを考えながらも、仕事の兼ね合いで病院に行くまでの間は空いていた。


産婦人科は特有の優しくて柔らかい雰囲気で、おれは大嫌いだった。


気分も最悪だ、イクラとか魚卵系を想像しただけで胃液がこみあげる。


おれは一刻も早く、子供を堕ろす処置をして、帰りたかった。


おれが相談したのは、首に猫でも巻いたら似合うんじゃねえかって思う、眼鏡をかけた小太りの医者だった。


医者のおっさんは「まあ、じゃあその前に」と言って、おれに1枚の写真を見せてきた。


それは腹の子のエコー写真だった。


堕胎を決意した女に見せるのは普通なのかと、疑問に思いながらも、おれはその写真を見てしまったんだ。


こんなもんで、おれの意志は変わらない。おれの決意は命よりも重い。


そんな自信と斜に構えた気持ちがあった。


渡されたエコー写真は、黒いフチに、さざ波のような模様が、布のシワのようにうねっていて、何だか、稚魚のレントゲンっていうか、よく分からないけど、想像のそれよりも、大きく、何かがたくさんあるように思えた。


「これって……?」



「双子です」



そう言われた途端、何故だか涙が溢れた。