0022 江東 キヨ (10/34)
「おっと、すまないね。こんな話、つまらないだろう」
「いや、おもしろい。それで?」
彼は炭酸酒で唇を湿らせると、目尻にシワを作り、今までよりもリラックスした雰囲気でこう語った。
「ここ50年で、表向きは植民地から解放された。けど、それはあくまで表向きで、未だに人種差別の溝は深い」
日本よりも遥かに狭く、小さな島国ジャマイカ。
度重なる奴隷制度、そして大地震も起きた。
どこか日本の土地と、その逆境の歴史にも似た国にも関わらず、ここは自然に満ち、健康的で開放感の溢れる地だった。
墨田の話と実際に見た景色で、そう思った。
「ふうん。墨田さんは、そういう歴史を研究してるわけだ」
「いや、歴史は僕の専門じゃない。僕の専門は脳科学でね、新たな研究をする前に、見ておきたかったんだ、この国を」
「なんで?何の研究?」
おれの興味に、彼はニッコリと笑った。
「動物と仲良くなる研究」
けど、直後には今にも泣き出してしまいそうな、暗い顔を見せた。
「だが、紙一重で人間の尊厳を蹂躙(じゅうりん)する研究だ」
「なにそれ?」