0022 江東 キヨ (9/34)

薄明かりのなかで見た彼は、イケ好かねえけど、なんかこう、個性的というか、魅力的だったんだ。


「およそ500年もの間、ここジャマイカは奴隷区だった」


彼はともし火からバーの内側を見渡し、おれにそう言った。


ドレイク。


聞きなれないけど、妙な迫力のあるその言葉に思わず唾を飲み込んだ。


ジャマイカの面積はおよそ10,990km、日本の秋田県や岐阜県と同じほどの島国だった。


おれですら、丸1日で地図上の地名をすべて覚えられるほど、この国は小さい。


当時からジャマイカは観光地として栄えだした反面、ガイドに「夜は出歩くな」と念を押され、すこぶる危険な区域と聞かされていた。


「この国の住民は壮絶な虐待を受け、反乱すればイギリス軍によって徹底的な圧力と更なる虐殺を受けた」


男はもちろん、女、子供、妊婦であろうが関係はなかった。


「彼らは人ではなく労働力として見られた、家畜としてね」


ファンキーな雰囲気から一転し、眉間にシワを寄せて朗々と語る彼の声は嫌いじゃなかった。


「人々は極限まで虐げられたとき、恐怖を克服するために何を行うか、分かるかい?」


「いんや」


首を横に振るおれに対し、墨田はこう言った。



「歌うんだ」



今もバー内では、パドワ語のレゲエが流れている。


既に環境音と同じくらいの自然さで、スローなテンポの音楽だった。