0022 江東 キヨ (6/34)
やがて自分は女だったらしいと、他人事のように理解し始めた。
友達との会話で「就職」という言葉じゃなく、「子供が」という言葉を聞いたときに、塞き止めたダムが崩壊するように、幼き日のジレンマが噴出すときもあった。
けれど、表情には出さず、ただ「そっか」と返す。
おれは地獄の血溜まりで星空に手を伸ばし「なぜおれはこうなんだぁ!」と自身の境遇を呪たまま。
枯渇した心を内に秘めたまま。
ただ静かで残酷な、この世界で平凡に生きていた。
そして、俺が美容師となり、20歳を過ぎた頃、その出会いは訪れた。
「こんにちは、お嬢さん」
「え?」
彼は、ただおれに挨拶をしただけだった。
こんにちは、って何の変哲も無い、ごく普通の挨拶をしただけさ。
けど、おれは心底驚き、戸惑っていた。
場所が場所だったからね。
そこは、カリブ海の島国。
ジャマイカの南東部に位置する首都、キングストンだった。