0020 板橋 ゲッコウ (57/82)

全ては咄嗟の判断だが、サスペンス映画のワンシーンをフラッシュバックさせながら、自然な流れで受け応える。


「そう それそれ ありがとう」


我からリストを受け取ったフジコは、少しシワの出来た書類を眺めた。


「読んだ?中身」


「いいや 読んでいないぞ」


落ち着け、自然に、普通に。それらと共に、意識を集中させろ。


「そう 不登校中の生徒達の名簿なのよ プライバシーの侵害になっちゃうから 気を付けないとねえ」


我も嘘を付いたが、この女も平気で嘘を付いた。


この茶番の様なやりとり、虫唾が走るわ。


「じゃあな 就任 祝福するぞ」


我はそう言い残し、部屋を出ようとする。


「ええ 板橋 ゲッコウくん またね」


フジコの「またね」が心へ粘着する。


そして名前を、覚えられた。


保健室を出た瞬間も、我は安心できなかった。早歩きでこの場を離れなければいけない。むしろ、離れたい。ここはまだ、安心出来ない。


食堂を突っ切ると、講堂がある。吹奏楽部が演奏会をしたり、演劇部が練習する場所。


今の時間なら、誰もいないはずだ。