0020 板橋 ゲッコウ (9/82)
我にとって、夜に行くその美容室は神秘的に映っていた。
「えっと ご予約ですか?」
受け付けにいた、銀髪の美容師らしき男が我にそう言った。正直、我はかなり緊張していた。
「い いや マリアという女性がここにいるはずなんだが」
「ああ」
理解した様子の美容師は、我を奥の部屋まで通してくれた。
部屋の真ん中には大きな両面鏡が並び、両側にイスも配置されている。
部屋の中の照明はライブハウスの様なスポットライトで、一瞬の眩しさに目を細めた。
鏡に、我の姿が映る。シャレた様子の店内と銀髪の美容師に比べ、何と貧相な事か。
伸びきった黒髪、ダサ過ぎる。
この空間に存在する事が、無性に恥ずかしくなった。
シャレた美容室だったが、髪を切りに来た訳でも無い。そして、客として来た訳でもない。
我は更に、部外者の心細さを感じていた。早く、早くマリアに会いたい。マリアに会って初めて、我の存在がこの空間に認められる。
何人かいる従業員は既に片付けを始めており、閉店間際である事を感じた。
我が通されたのはシャンプーをする為のブースだった。女の髪から香る様な、いい匂いがする。
真ん中の座椅子に、仰向けで寝る人物。死人の様に、顔にガーゼが掛かっている。
白いガーゼで顔を隠したマリアが、そこにいた。