取り戻すだけだ (6/10)

絶対絶命で絶望的で絶叫したくなる様な状況だった。

間違って入ってしまったこの部屋に

どこの誰かも知らない男が縛られて拷問を受けていて

ゴスロリ少女とセーラー服少女に命を狙われているこの状況は



笠井「・・・・・・・・・・・・」


本当に、絶望的に、意味がわからなかった。


何がどうなってこうなった。


数日前までの俺は愛しの鷲宮さんのキュートな笑顔とプリティな暴言を受けながらただひたすらにクレームを処理していたじゃないか。


なのに、何で、こうなってしまったんだ。



笠井「・・・・もう俺、クビでもいいかな」


そんなセリフが、半笑いの俺の口から漏れた。


だってそうだろう。


こんな意味のわからない部屋で

こんな意味のわからない奴らに

命を狙われるくらいならクビになった方が100倍マシだ。


まぁ、この歳で再就職は難しいだろうけどな。



不可思議「えーっと。そっちのお兄ちゃん。名前は知らないけど....死ぬ準備できた?


セーラー服の美少女に殴り殺される。


笑っちまう程、不自然な響きだな。


一部の危ない方々は喜びそうだけど。



雄鶏「S。Smile。笑っていますよ、あの男。気でも狂ったんですかね」


黒夜(・・・・バカが。ボクなんかの為に....命を落とす事無いじゃないか)


・・・・なぁ、犬村。


お前は問題児枠の同期の中で

唯一”心を許してもいい”と思えたよ。


まさか唯一の相手が人間ではなく犬だなんて、ホント....笑えない話だけどさ。




犬村「・・・・笠井。聞こえるか」


それまでピクリとも動かなかった犬村が弱々しく声を漏らした。


笠井「犬村.....もう終わりだよ、俺達は」


犬村「・・・・聞け、笠井。俺のポケットに.....小瓶が入っているハズだ」


笠井「・・・・・・・・あ?小瓶?」


コイツ.....突然何言って.....。



犬村「まだ.....お前には言っていなかったが......」



笠井「おい、犬村.....お前何言ってんだよ...」




犬村は、まだ決して光を失っていない両の目で俺を見据えながら

今度はハッキリとした口調でこう言った。









犬村「俺は........元々”人間”だった」