ストーカーLevel4 (7/8)
残酷すぎる世の中を嘆いて枕に顔を埋めていると、私は知らないうちに寝てしまっていた。
「ん…」
むくっと起き上がる。
壁に掛かった時計を見ると、10時前だった。1時間くらい寝ていたらしい。
少し視線をおろすと、目の前に置いてあるテーブルの上の片手鍋が目に入った。
「なんであんなところに」
手を伸ばそうとして体勢を前のめりにすると、
沖谷唯が視界に入った。
スー、スー、と規則正しい静かな寝息をたてて寝ていた。私の寝ていたところで頭を支えるようにして。
「うわびっくりした。どうしてここにいるの」
沖谷唯を眺める。
「…綺麗」
思わず零した言葉。
だって本当に綺麗だったから、沖谷唯が。
顔にかかる明るい茶色のふわりとした髪。
スベスベしたニキビひとつないきめ細かい肌。
長くて真っ黒なバンビを連想させるようなナチュラルにカールした睫。
綴じていてもわかるくらい、男らしいのにクルンとした目。
すっと通った鼻筋に、少しカサっとした薄くて桜色の唇。
どこをとっても完璧な、端正な顔立ち。
「どうしてここにいるの」
私はもう一度、呟いた。
それから、沖谷唯が起きないようにそっと片手鍋を覗くと、甘い香りがした。
「ミルク粥だ」
私、これ、好きなの。
心の中で喜んだ。
つくづく素直じゃないな、と思う。別にいいけど。
『美月たん、冷めてたら温めて食べて』
沖谷唯のメモがある。
でも猫舌な私には、そのミルク粥はほんのり甘くて温かく、とてもちょうどよかった。
「ありがとう」
小さな声で言った。今まで真理子にすら甘えたことがなかった私にはそれが精一杯だった。
よかった。コイツが寝ていてくれて。
どうせ私の顔、真っ赤なはずだから。
コイツといると調子狂う。