推理~独身会社員~ (5/18)
錆びた階段をカツカツとゆっくり下りた。
あー、体がだるい。
そう思いながらふらふらと歩くと突然声をかけられた。
声の主はこのボロアパートの大家さんだ。
元気な声でおはようと言われ、俺は空元気を出して出来る限り元気に返事を返した。
大家さんは50歳くらいのおばさんでとても人当たりがいいと言うか親切で、たまに差し入れにおかずなどの余りを部屋に持って来てくれたりして助かっている。
俺が空元気を出したのはそんな大家さんに心配をかけたくないからだ。
しかし大家さんは鋭い。
「あら、どうしたの?朝からそんな疲れた顔して。寝不足?」
心配をしてくれるのはありがたいが、さすがにストーカーだとは言えない。
言ったら大家さんにまで迷惑が及ぶ気がするしな。
「少し寝不足です。仕事が大変で。」
俺が苦笑いを浮かべて通り過ぎると、大家さんは後ろから気をつけてねと声をかけてくれた。
「あ!それから……」
大家さんが俺の背中に続けて言う。
「ゴミ捨て場にゴミを出すときはしっかりと口を結んでおいてね!散らかってたわよ。」
俺はピタリと足を止める。
「え、ああ、はい。わかりました。」
大家さんには適当に返したが、どうもふに落ちなかった。
俺はゴミ袋の口をしっかりと結んで出したんだが……。
そんなことを考えて歩くと、少し先にいつもゴミを出すゴミ捨て場があった。
散らかってるわけなくないか?
俺は自然とそちらに目を向けた。
しかし、俺が出したゴミは大家さんの言う通り散らかっていた。
ゴミ袋の口はまるで誰かに無理矢理開けられたかのように引きちぎられている。
ストーカー。
俺はその言葉をまた思い出し、嫌な予感がした。
いや、考え過ぎだ。
カラスだよ、きっと。
俺は自分に言い聞かせてゴミ捨て場の前を足早に通り過ぎる。
本当はその時にもっと気にかけていればよかったんだ。
散らかっているゴミは俺のだけだったという事に。