涙の退院 (2/5)

「佐倉先生」

待合室で窓の外を見ていた私は、名前を呼ばれるまで後ろに人がいることに気づかなかった。

振り返ると、青野刑事が立っていた。
彼はどうも、と頭を下げる。



「今日、佐倉先生が退院されると聞いて飛んで参りました。僕がお送りさせて頂くことになりました」



「あ、そうなんですか……お願いします」

私は彼の顔を見て返事をすることができず、背中を向けた。

顔を見られたくなかった。

30にもなって自分が照れていることを認めたくはなかったけれど。




『事件が片付いたら事件以外のこと、お話ししましょう』

前回青野刑事が病室来た時の、去り際のセリフ。
思い出すまいとするけれど、どうしても頭の中に蘇ってしまう。

正直、照れ臭い。
そのセリフはそのままの意味だと思う。

嬉しかったのも事実だった。



「それで、今日は先生に会いたいという人たちも来てます。今、ロビーで待機してもらっています」

そして「それでは行きましょう」と青野刑事は先に廊下を歩き出した。

私は着替えなどの衣服で膨れたバッグを持ち、彼の後に続いた。