独白の声 (2/14)
その日は朝から雨だった。
しとしとと弱い雨が、絶え間なく降り続ける。
6月らしい天気だけれど、雨というだけで気分は下がる。
「いってきます」
「琴音、ちょっと待って」
私が傘を持って玄関を出ようとした時、母に呼び止められた。
まだ要件は分からないけど、ムッとした顔で振り返る。
「車で送っていこうか? 雨でしょう?」
母は遠慮気味にそう言った。
「……別に、これくらいの雨だったら大丈夫だけど」
素直に答えず、ぶっきらぼうな答えを返してしまった。
部活を辞めて以来、母とは少し気まずい。
「……そう。気をつけて行くのよ」
母はリビングへと消えた。
なんなの……
何に気をつけるっていうの?
ただの雨じゃない。
私は文句を引きずりながらも、家を出た。
傘をさしながら自転車で登校した。
ダサいけど雨具を着ているので、服はあまり濡れなかった。
髪も短くしたおかげで濡れなくて済んだ。
学校に到着し、私は教室で靴下を履き替えていた。
雨の日は靴下の替えは必須だ。
ちらりと甘橋さんの席を見る。
そこに彼女の姿はなかった。
もう2度と会えないような気がした。
「琴音、トイレ行こ」
不意に話しかけられ振り返ると、みのりがいた。
彼女は髪をタオルで拭いていた。
「……え?」
みのりは、一体どういう神経で私に話しかけているんだろう。
「え?じゃないよ、トイレ一緒に行こうって言ったの」
何でもない事のようにみのりは言った。
なぜ私に声を掛けてきたのかは、大体予想できた。
が、「なんで私?」とあえて尋ねてみる。
「なんでって……今日、ゆきいないし」
予想通りの答えだ。
もう佐々木みのりがよくわからない。
本気で悪気がないのかもしれない……
もはやどっちでもよくなって、私は席を立った。
トイレでは用を足すわけでもなく、みのりは鏡を見ながら髪型を整えるだけ。
「朝からトイレとか萎える~」
と1つだけ閉まっている個室に向かって声を掛ける始末。
私は手持ち無沙汰で、とりあえず同じように髪をいじる。
……私が一緒に来た意味ないじゃん。
わかってたけど……
「あの、みのり?」
彼女の真意を知りたい。
思い切って名を口にする。
「ん、なに?あっ、1限目始まるじゃん!」
みのりはバタバタと女子トイレを出て行った。
もう、仕方ないな……
私はトイレを出て行こうとして、足を止めた。
誰だか知らないけど教えてあげた方が良いよね。
「も、もうすぐ1限目始まりますよー」
閉まっている個室に呼び掛けた。
返事はなかった。
まあいいか。
私はトイレを出て教室に戻った。
朝のホームルームが終わり、チャイムが鳴る。
1限目の授業が始まった。
……甘橋さん、来てない。
空席を見て少し寂しく思った。
窓から入る日の光に、神々しく照らされる甘橋さんの姿が思い浮かんだ。
ああ、残念ながら今日は雨だ。
細い線が窓を伝っていた。
「小原」
「あ、はい」
出席確認をする先生の声で、視線を黒板の方に戻した。