神出鬼没 (11/11)
楢崎大地……奈子の中学時代の元恋人。
「篠崎君は念のために連絡をくれたそうです。奈子さんに関わる人物は全員疑った方がいいです、と言っていました」
「それはそうだな……」
まさか高校生に初心に帰らされるとは思わなかった。
ヨシキの事ばかりに意識が向いていたのは事実だ。
犯人が誰かわからないのだ、油断してはならない。
ここにきて楢崎大地が動き出したと考えるか、否か……
彼も奈子の居場所を知りたいと思う人物の一人ではある。
犯人ではないとは言い切れない。
そしてもう一人、地村だ。
彼はどういうつもりで奈子に資金援助をしているのだろう。
たかが18歳の男が稼ぐ金だ、大した金額ではないはずだ。
他人に金を渡している、自分の生活への資金繰りもしなければならないにも関わらずだ。
奈子や夏江にとっては救いの神にちがいない。
地村の胸の中にどんな理由があるのか、どんな目的があるのだろうか。
そして奈子に関わる人物の中で最も動機があると思われる、ヨシキ。
ヨシキはこの事件に関わる場所で姿を現わしている。
そして忽然と姿を消す。
その場所のひとつは、奈子が通っていた中学校。
そこの教師である佐倉先生が被害に遭っている。
先生を襲ったのがヨシキかどうかは不明だが……
もう一ヶ所、ヨシキが目撃された場所。
駅の周辺だ。
ヨシキと小学生時代に接点があった笹峰万里子が目撃している。
そしてヨシキが姿を消した道では、佐々木みのりという生徒がレイプ未遂に遭っている。
その際、佐々木みのりはクラスメイトに助けてもらったという。
佐々木みのりにとっては救いの神が現れた場所といえる。
奈子の元恋人であり美月の父親、楢崎大地。
なぜか奈子に支援を送る地村。
現れては消える神出鬼没の少年、ヨシキ。
大貫の中で3人の容疑者の名が挙がった。
「犯人は誰なんでしょう……今どこにいて何をしているのでしょうか……」
青野が遠くを見る目で窓の外に目を向けた。
「そいつは、いずれあの玄関に訪ねてくる……必ず」
大貫は向かいの棟にある一室の扉をを見つめた。
これ以上、犠牲者を増やすわけにはいかない。
次に被害に遭うのが、自分の娘などという事はあってはならない……
大貫は娘と元妻が暮らす部屋の玄関を見つめた。
救いの神が現れ、犯人という鬼が没するであろう場所を。