神出鬼没 (2/11)

大貫の膝の上にカロリーメイトの欠片がポロポロと落ちた。

それを気に止める事なく、完食する。
不健康極まりない晩飯だと大貫は自嘲した。


彼は現在、団地の一室に居る。
そこは空室のため、家具のひとつもない殺風景な部屋だ。

擦り切れた畳の上に胡座をかいている。
部屋を汚してはいけないので、禁煙である。



タバコはベランダで吸えばいいか……

カロリーメイトの空箱と包み紙を丸めてビニール袋に入れた。
次にそこからタバコを取り出す。


手際よく開封し、タバコを1本口にくわえた。
カラになった缶コーヒーを手に持つ。

ベランダへ出ようと、重い腰を上げた。


それと同時に畳の上にパラパラと何かが落ちる音。
カロリーメイトの食べカスが彼の膝から落ち、畳の上に散乱していた。



「ちっ……」


この部屋を綺麗に保つ事を諦め、その場でタバコに火をつけた。

肺一杯に体に有害な煙を吸い込んだ。
ベランダの外へと目を向ける。

網戸を透して向こう側の団地が見えた。




大貫はこの一室を借り、監視しているのだ。



この部屋からは向かい側の棟が見える。
彼が今居るのがA棟で、向かいに建っているのがB棟。

B棟の廊下に玄関扉が並んでいる。
その扉のひとつを常に確認出来るのである。




タバコの灰を空きカンの中に落とす。
外気がタバコの煙を掻き消していく。




犯人はいつ現れるだろうな……
大貫の視線は、B棟の3階廊下に並んだ扉のひとつに固定されている。

そこが大貫の娘の、白神奈子の現在の住まいである。


奈子の住処を知った犯人が、彼女を訪れる時をここでひたすら待つのだ。



1本目のタバコを空きカンの中に捨てた。



「お疲れ様です」

青野が帰ってきた。

「異常なしですか」


大貫の表情で状況を察したようだ。


「そりゃあそうだ。犯人も奈子の居場所を知った翌日にノコノコと現れるバカじゃない。そっちはどうだった」



「こっちはバッチリです」

青野はファイルした資料を差し出してきた。
そこには、ある人物の目撃情報がまとめられている。



ある人物とは他でもない、白神由基である。

こんな形で奈子とヨシキに再会するとは……
ファイルを受け取り、大貫は資料に目を通し始めた。