探偵部の活動日誌② (13/13)
5月19日
僕、篠崎による日誌は今日で最後です……と言いたかったが。
今朝、小原さんからLINEが来ていた。
昨日の事を報告する内容だった。
彼女からのLINEを要約するとこうだ。
昨日、僕が大貫刑事と話している最中のこと。
小原さんと笹峰万里子さんは青野刑事に付き添われ、ある場所へと向かった。
ある場所とは、笹峰さんが数週間前に白神由基の姿を目撃した場所だ。
駅前周辺だという。
そして笹峰さんは白神由基が姿を消した辺りまで、青野刑事を案内した。
彼が姿を消した場所は、駅から少し外れた人通りの少ない道。
そこに来てその場所に反応したのは、意外な事に小原さんだった。
その場所は先週、佐々木みのりが強姦に遭った道だという。
強姦に遭ったなどという話は初耳だった。
事件と関係ないと判断し、小原さんは黙っていたようだ。
強姦も未遂に終わっていた為、大事にしたくないという佐々木みのりの意思を尊重しての事らしい。
白神由基が姿を消した道を進むと、佐々木みのりが強姦の被害に遭った場所に出るのだ。
……しかし、もう関係ない。
警察の人が捜査もしてくれるし解決もしてくれる。
LINEを読んだ僕はすぐにアプリを閉じた。
佐々木さんが強姦に遭った件と、笹峰さんが白神由基を目撃した件が関係しているとは限らない。
今度こそ偶然に違いない。
僕は無関心を装って、その日1日を過ごした。
放課後になる頃には、事件から手を引くという諦めがついてきた。
最後の最後に珍しい経験が出来たかな……
少し感傷に浸る。
依頼文が探偵部に届いて、ビラを作って、
あ、あのビラはもう外しておこう。
ビラの事をふと思い出した。
『知りませんか?』というタイトルのビラを全教室に貼ろうと、僕たち探偵部で企んでいたのだ。
白神奈子の居場所を知るために。
よくあんなもので解決できると思ったなあ……
結局、日村が金本に邪魔をされてビラ貼りは失敗に終わったのだ。
ビラを貼れたのは、自分の教室のみ。
僕は教室内を見回した。
まだ何人かの生徒がお喋りしている。
全員が教室から出ていったらビラを剥がしにいこう。
僕は黒板の横に貼られている小さなビラに目を向けた。
しばらくして、教室には誰もいなくなった。
僕は席を立ち、ビラを剥がしに向かった。
貼り付けたビラを乱暴に剥がす。
今となってはただの紙切れだ。
くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てようと、体の向きを変えた。
「っ……!」
驚いた。
教室の入口に人が立っていた。
立っていたのは、よりによって彼だった。
事件のことから頭を切り替えたい僕にとっては余計な客人だ。
彼は明らかに僕の行動を見ている。
何の用だろうか……
僕は紙くずを捨て、カバンを背負って教室の扉へと歩いた。
「あの紙、貼ったのお前だったのか……」
彼は言った。
「……そうだけど」
僕は話したこともないのにお前呼ばわりされた事にイラついた。
僕は彼を見上げた。
「お前が教室に残ってるの珍しいと思ってさ、紙の方チラチラ見てたし」
と、僕を見下ろして彼はぶっきらぼうに言った。
「あ、そう……」
負けずに冷たく返事をした。
「俺も知りたいんだけど……白神奈子のこと」
ぶっきらぼうなのは関心の強さの裏返しだったようだ。
僕は彼の目を……楢崎大地の目を見てそう思った。