君のためなら (26/26)

その日の夜、私は万里子に電話した。
事のあらましを説明する。

ヨっくんのから手紙が来なくなった時期に、両親が離婚していたのではないかという話には、万里子もショックを受けていた。


「……気づいてあげられなかったなあ」

彼女はそう呟いた。



最後の手紙についても話した。

「あんな内容なんだもん、きっと何かあったんだろうね」

万里子は悲しそうに言った。



最後の手紙の文面。

『今まで手紙書いてなくてごめん
もう二度と会えないかもしれない
でも君のためなら、いつか必ず』




2度と会えないと言っているにも関わらず、ごめんと謝罪している。
そして末尾には再会を約束するような言葉が綴られている。


彼の心が揺れていた証拠だ。
そして、万里子を失いたくはないという心の表れだ。




『君のためなら』

この言葉がどれだけ女の子の気持ちを縛り付けるか、当時のヨシキ君も知らなかっただろう。



万里子にはヨっくんを見つけて欲しいという旨を伝えた。
もちろん協力はする、と。



彼女は快諾してくれた。
万里子の声から強い決心が感じられた。










次の日の放課後、私は再び探偵部に顔を出した。
そして、万里子の決心は必要がなくなったと知る。



探偵部の部室に刑事が現れた。
大貫刑事と若い刑事。

若い方は青野と名乗った。




「話しておきたいことがある……」

部室に入るなり、大貫刑事は言った。
が、途中で私に目が止まり不思議そうな顔をした。

「おや、君はたしか、小原さん。極秘の話があるんだ、少し部屋の外へ出ていてもらえないかな」


穏やかに、しかし断らせない口調で大貫刑事は言った。



戸惑う私の前に篠崎さんが立ち塞がる。


「彼女は部外者ではありません」

篠崎さんは断言した。



「どういうことかな?」

刑事は睨みを効かせている。



「あなたにとって重要な鍵を握る人物です」




大貫刑事の目が鋭く光った。

「ほお~、是非聞かせて欲しいものだな」




「お断りします」

と、篠崎さんは余裕のある声。


それを受けて大貫刑事は掠れた声で笑った。

「ははは、青春ごっこかい。彼は君のためなら何でもしてくれそうだね、小原さん」


刑事は篠崎さんの後ろに隠れている私を覗き込むように視線を移らせた。






部室の空気が痛いくらいに張り詰めた。





……君のためなら、か。