0014 大田 ユウガ (10/60)
女の声は耳元で囁き、他の人間には聞こえないトーンだ。
「中身はサコシニルコリン」
サコシニルコリン?聞いた事だけある。
たしか筋弛緩剤(きんしかんざい)だ。
どこで手に入れるんだ、そんなもん。
「別名 塩化スキサメトニウム 体内では別の物質に分解されるので検出は不可能 お尻への筋肉注射でも即死です」
おいおい。間違えても注入しないでくれよ。
「お尻には坐骨神経っていうず太い神経があります 傷付けたら危険だから最近は病院でもお尻への注射は行われていません」
説明の中、電車が少し揺れた。
そんな説明いらないから気を付けてくれ。
それにしても妙に詳しいね。
この女、仕事が医療関係か?
薬剤師?医者?それとも看護師か。
ヒソヒソと話す、生暖かい息が耳にかかる。
「妙な動きをしても射す 次の駅までやり過ごそうとしても射す 奴隷になってくれなくても射す」
蜂みたいな女だな。
「4分で全てを済ませます」
次の駅まではあと5分強。
早めの終了は、逃げる時間も与えないってか。
「ハ」
ハハハハ。
思わず声に出して笑いそうになった。
僕の顔は我慢できないニヤニヤが止まらない。
この状況、ゾックゾクするなー!