0014 大田 ユウガ (2/60)

満員電車を想像して欲しい。


僕は朝の7時30分に、都心へ向かう満員電車に乗っていた。


ギュウギュウだけど、左の目の前にはいい匂いのする長い女の黒髪がある。


この匂い、知ってる。何の匂いか思い出せないから、敢えて聞いてみるのもいいね。


右手には坊主に近い髪の毛の、背の高い男の人。


みんな仕事に行くんだろうなあ、とかボーッと考えていた。


そんな中、突然後ろから声がした。



「大田 ユウガさん」



女性のささやく少し低い声。



その声にゾッとする。



電車でいきなり僕の名前が呼ばれたんだ。



この後、普通の人間ならどう思うだろ。


もしかして痴女のストーカー?


むしろ友達のイタズラかな?知り合いかも。



  『 ──ュイ──ン 』



けど僕は思ったんだ。



まずい。ってね。



いきなり僕のSCMからアラームが鳴った。



後ろの女が今、SCMを着けたんだ。



反射的に僕は振り向こうとする。



けど振り向こうとした瞬間、右のケツにチクッとした痛みよりも、さらに鋭い痛みを感じた。



「まだ振り向かないで下さい」



この痛みは、針か。



鋭過ぎる痛みに覚えがある。



注射器の可能性が高いな。



僕は後ろの声に、おとなしく従い、振り向くのを止めた。



まずいな。本物のSCM所有者だ。



くそ。タイミングが悪すぎる。



満員電車で遭遇ってのもそうだけど。



僕、今アヤカのパンツ履いてんだよね。