0003 杉並 ルシエ (25/32)
あたしはすぐに自転車を走らせ、逃げようとした。
「待って!待ってくれ!」
え?
窓から男の声。
待てと言われて誰が待つか。
「勝負はしないから!話がしたいんだ!」
自転車をこぐ、あたしの足が止まった。
男は2階から降りて来て、あたしの前に立つ。
その男は、あたしの知らない男だった。
目黒じゃ なかった。
ジャージとサンダルで、髪は汚い金髪でボサボサ。年齢は20代前半くらいだろうか。
だらしなくて不潔な若者、って感じ。
近づく度に、SCMが『 キュイ──ン 』と鳴る。どうやら、さっきの震動もこの震動も、SCM同士が近づくアラームだったようだ。
「えっと 君もSCMを?」
「はい まあ」
男はあたしにそう聞いてきたが、あたしは辺りを気にしながら答える。こいつの大声で、周りに不審がられたり、ましてや目黒に見つかるのは嫌だ。
「あの ここじゃちょっと」
あたしがそう言うと、男も周りを見る。
「あ ああ 気になる?俺の部屋で良かったら 」
「いや!」
あたしは突発的に拒否した。