0002 渋谷 サチ (4/18)
ウチは図を見ながら、口を広げ、歯の裏にその器具をハメてみた。
最初はちょっと痛いけど、なんか調子良くハマる。机の上に置いてある手鏡を取り、鏡の前でイーッとしてみた。
なるほど、最近の矯正器具は人から分からないようになってるのか。
箱が置いてあった方を見ると、もう1個同じ箱がある。なんだ、あいつウチの分まで買ってたんだ。
この間、客に歯並びのことを言われたから丁度いい。口の中の金具を舌でイジりながら、説明書をめくろうとした時。
ピピ ピピピピピ
携帯が光った。電話だ。
携帯のディスプレイに表示された名前は店の代表。
電話にはすぐ気付いたが、手の中の携帯を見つめ、考える。
ウチの出勤にはまだ時間があるから、なんとなく電話の意図は伺えた。
会話の内容を少し考えてから、数秒後。
「もしもし」
電話に出てみる。
代表の用件は予想通り、早めの出勤だった。
何でも、これから代表の知り合いが店に遊びに来るのに、当欠が何人か出たそうだ。
女の子は足りているらしいが、見栄を張りたいという理由で、No上位のウチに早出して欲しいそうだ。
ま、悪い気はしないけどね。