0021 千代田 マリヤ (85/85)
ぼくが立ち上がるより先に、彼の持っていたバットが、ぼくの顔に届いたんだ。
「ギャッ!」と叫んだ自分の声が聞こえた。
ゴゥンと、鐘の音が鳴るような衝撃が頭に響き、痛みよりも先に視界が真っ白になった。
「グッ だいっ いだい」
遅れてきた吐き気すらもよおす鈍痛に、バチバチと瞬きし、意識が朦朧とする。
「あー やっと見つけた」
男はそう言ったかと思うと、ぼくの口の中に、無理矢理何かを入れてきた。
『キュイーン』
まずい。SCMだ。
男がフードを取った。いかにも野球の部活帰りって感じの格好で、バッドを持っていた。
短い髪に、細い目。これといって特徴がない、普通の見た目。
けど、ぼくはこの男を知っていた。見たことある。
たしか、レンタル屋の……店員。
まさか、ぼくの住所を、調べて。会員の登録を見れば簡単にそれが、できる。
断片的な言葉が浮かぶ中、やっぱり、ぼくは書面上でしか存在しないんだと、落胆した。
自分の頭を触り、手についた血を見た瞬間、叫ぼうとした。けど、そいつが口を塞いできたんだ。
彼はぼくの耳元に近づき、生暖かい息を吹きかけると、こう言ったんだ。
「日本人の平均生涯年収を知っているか?」
今までしたずるっこや、ついてきた嘘、下水みたいな人生を振り返っては反省し、ただひたすらに、ごめんなさいと反芻しながら。
ぼくはこいつに何もかも奪われる。そう思った。