よん (16/30)



夏休み、小学校高学年にだけある水泳の特別教室(部活)から帰ると家の前にその人は居た。

その日はたまたま葵と翼は陸上の方に参加していて、紘と2人は帰る時間が違った。それが紘にとっては最悪のタイミングであの人にとっては最高のタイミングだった。


その人と目があった。
何かを言われた。

"あの人に似てるね"
多分そんな事だった。

次に言われた言葉ははっきり覚えてる

"わたしの子供は?稜と蓮は今どこに居るの?"

意味が分からなかった。
稜ちゃんと蓮くんは間違いなく"母"の子供だった。
その人の言葉を、理解できなかった。

意味が分からない、そう顔に出てたんだと思う。
はっ、と馬鹿にした様な声で笑ってその人は言った。

"知らないの?稜と蓮は私が産んだのよ"

世界が止まった。
目の前の女が何を言っているのかが分からなかった。

"まああの人と過ごすのに邪魔だから置いてったけど"

耳を塞ぎたかった。
悪意しかない目の前の存在を消したかった。
笑みを浮かべながら言えるこの人の神経を疑った。

"いまは後悔してる"

"あの人との間にできた子ね、女の子なの"

"貴方と歳は近いわ"

"最近お兄ちゃんが欲しいってずっと言ってるの"

"だから稜と蓮にお兄ちゃんになって貰おうと思って来たの"

いったいこの人は何を言ってるんだ、目眩がした。
理解が出来なかった。
理解をしたくなかった。

"だから2人を私に返して"

"ね?稜と蓮も生みの親の私の所に来た方が幸せに慣れるのよ?"

"貴方は母親が違うとは言え兄の幸せを望めないの?"

嫌だと言いたかった。
稜ちゃんも蓮くんも母の子供だった。
私たちの家族だった。兄だった。
でも目の前の存在が怖くて怖くて堪らなくて首を振る事しか出来なかった。

『帰って』

絞って絞って出た言葉は小さかった。

『帰って!!二度と来ないで!!』

2度目の言葉は大きな声が出た。
でも、瞬間的に音を立てて身に受けた衝撃に頭は追いつかなかった。

叩かれた頬が熱を発して痛みを伝えていた。
涙が溢れ出してきた。
理解が出来ない今までの会話に、痛みに
我慢してた何かがどっと溢れてきた。


「紘?」


聞こえた自分の名前を呼ぶ声に顔を上げると
大好きな大好きな兄が走ってこっちに向かってきた。

大好きな兄に手を伸ばして
お腹に顔を埋めて、
何も見たくない、聞きたくない、
これ以上は無理だと
助けてって