0003 杉並 ルシエ (30/32)
「えっと まあ そんな感じ」
さっきまでペラペラと説明していた雰囲気から打って変わり、男は気まずそうに答えた。
そうか。多分SCMを知らない人間に売るより、SCMの価値を知るSCM所有者に、より高値でSCMを売り付けたかったのだろう。何らかの理由でネットで売ることができないか、失敗したんだ。
「例えば いくらで売りたいんですか?」
「今ネット上では15万くらいで買う人もいるんだけど なんとお得な10万円でどう?」
なんとお得な10万円なんて話にならない。
「あー じゃあいいです」
あたしがそのまま先の道を歩こうとすると、男は慌てて引き止めてきた。
「ちょっ!じゃあ8万!いや7万は!?」
「1万」
あたしは自転車を押し、前を向いたまま断言した。
「へ?」
「元値が数百円でしかも口ん中に入ってた中古品ですよ?1万でも十分高いですよ」
ていうか、今持ってるのが1万円なんだけどね。
「1万って!ネットでは600万って人もいるんだぞ!」
あ、こいつも知ってるんだ。