0003 杉並 ルシエ (3/32)

2月の寒い深夜。


そいつの車で、山ん中のトンネルの心霊スポットを見に行ったんだけど、山に入った道の狭い空き地に車を止められた。


そして、まず告られた。


まだ会って数時間だったから、引いたけどなるべく柔らかく断った。


けどそいつはそこから「キスがしたい」「6年も彼女がいないから溜まっている」など、下ネタとセクハラを話すようになった。


あたしが「怖いから家に 帰して」と言っても、そいつは変に優しい感じで帰そうとしない。


会話の流れは今でも覚えてる。まだ会う前に、そいつのことを「紳士的だしおもしろいよ」と、あたしが社交辞令程度にほめたことを言ってきた。


さらに、あたしが言った好きな男のタイプが「常識あっておもしろい人が好きと言ったじゃないか」など、どうやら自分があたしの好みで、イコールあたしが自分に惚れていると思い込んでいたらしくてさあ。


そんなことを言われても、そいつはあたしが好きなタイプの、おもしろい常識人ではなかった。


あたしも段々口数が少なくなり、頭の中ではどこまで山を下ればタクシーを拾えるか、通りすがりの車にヒッチハイクできるかなど、わりとのん気に考えていた。